与謝蕪村(1716〜1783)は、「鮒ずしや彦根の城に雲かかる」の俳句を残している。
鮒ずしは日本三大珍味の一つであり近江を代表する郷土料理である。
何故蕪村はそれを彦根と結びつけたのだろう。
彦根の風土が育むそれが一番と蕪村は描いたのだろうか……。
彦根城は三層の天守(国宝)を有し世界遺産に暫定登録され、時代劇には度々登場する美しい城である。記憶に新しいところでは、山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」に天守をはじめ太鼓門櫓、西の丸三重櫓、天秤櫓、などの重要文化財も映っている。
実は、天秤櫓に架かる廊下橋の手前に「鮒ずしや彦根の城に雲かかる」の句碑はある。蕪村がこの場所で詠んだ句とは到底思えないのだが……。
とにかく、彦根を代表するモノとして城と鮒ずしを蕪村は選んだ。
蕪村が生きた時代とは城の様子は異なってはいるが、句の背景にある大らかな情景と悠久の時のイメージは変わらない。
蕪村は俳人であり画家でもあった。言葉にそして一枚の絵に時を封じ込めるには長けていたのだろう。
「鮒ずしや彦根の城に雲かかる」……イメージの向こう側には美しい湖がある。