琵琶湖には、ゲンゴロウブナ(源五郎鮒)、ニゴロブナ(似五郎鮒)の2種の固有種が棲息している。両種ともフナズシに用いられているが、ニゴロブナで漬けたフナズシは骨まで柔らかくなり最も美味であり、漁獲量が少なく希少価値から最高級品とされている。
ニゴロブナの名は、その姿がコイに似ているからともゲンゴロウブナに似ているからとも言われている。確かに鯉に似ている。ならば何故「似鯉鮒」ではないのか?
ゲンゴロウブナならば「似五郎鮒」と随分と納得できるのだが……。

「ふなずしの謎」(滋賀の食文化研究会編/サンライズ出版)には応仁の乱の頃の話が載っていた。
『都にフナを売りに出て評判を呼んでいた堅田の漁師源五郎が、大納言の姫君に恋をした。身分が違いすぎ、思いを打ち明けられなくて悩んだ末、この大納言に立派な焼きフナを持って参上した。ところが姫に差し出されたフナの腹の中から、源五郎が書いた恋文が出てきて、これをきっかけにして、二人は結ばれたということだ。』

また、曲亭(滝沢)馬琴の「壬戌羇旅漫録(じんじゅつきりょまんろく)」には江戸時代の話が記されていた。
『近江の源五郎鮒は。一説に佐々木家一國の主たりし時錦織源五郎といふ人。漁獵のことを司る。湖水に漁りたる大鮒を。年々京都将軍に獻ず。その漁獵の頭人たるによりて魚の名によび來たれり。』

「錦織源五郎」→「源五郎鮒」→「似五郎鮒」。実にスッキリした。


引用:「壬戌羇旅漫録」
http://www.jfast1.net/~w-hill/shoko/kiryo.html