フナズシと私

高谷好一さん(聖泉大学教授)

 20年前になるが、友人のビルマ人が私の家に泊まったことがある。フナズシの話をすると、彼はビルマにもあるといった。「塩漬けにして、ゴハンを詰めて発酵させるのでしょう。山では猿のもあります」といった。一年のうちのある時期にだけ漬けるのだという。その時満開になる特別の花をたらふく食った猿は香りが特別よく、特上の猿ズシになるのだという。にわかには信じられないような話だが、どうやら本当らしい。
 さすがに猿ズシは特殊な例だが、川魚のナレズシはビルマ、タイ、ラオス、ベトナムなど広範囲にある。北タイのある村では、そうした川魚のナレズシを神に捧げる祭をしている。私の隣村の幸津川のスシキリ祭と同じようなものである。
 カンボジア起源といわれるフナズシは猿ズシのような亜型も含めて、広い分布を持っている。琵琶湖のフナズシはこうしたナレズシ圏の最北にあたるもので、同時にその中では最も高度に発達し、まるで芸術品にまで高められたものだ。と私は思っている。